
家賃100万のマンションで合コンをして胸が痛んだ
「どうしても1人足りなくて!お願い、今から来れる?」の一言で、合コンに行った。
その日は電通の説明会を受けた直後で、意識の高さは絶頂。そういう時の誘いは何でも気持ちがいい。まるで仕事のアポが取れたかのように、指定された場所へ行った。
「赤坂駅で降りて、出口を曲がって、進んで」と指示されるままに歩くと、高いビルがあった。田舎からお上りした私でも気づいた。
「これ、赤坂サカスじゃん?」
高級マンションで繰り広げられる、非・丁寧なおもてなし
おそらく家賃が100万円くらいはする高級マンションの一室で開催されている合コンに、私は遅れて参加した。
先にいた慶應女子たちの笑顔がまぶしかった。そんなまぶしい女子が一生懸命、涙ぐましいほどに相手の話を取り出し、盛り上げた。年収は女を聞き役にさせる。
対して男たちときたら、辛うじてワイシャツは着てきました……という程度の普段着で、清潔感は10段階中4くらいだった。ただし筋肉はムキムキで、男子校で好かれそうな外見の男子が4人いた。
電話1本で誘われたとはいえ、私の尊敬する聡い女性が金と権力に負ける姿は少し悲しい。
「食べ物はデリバリーだから大丈夫だよ」と言われ待っていたら、ピザハットが届いた。高級マンションで釣っておいてからのピザハット。相手を非・丁重にもてなす、最低のコラボじゃないか?
そこにダメ押しでホッピーが届く。ホッピーって!慶應女子の1人が無邪気に質問する。
「これ、なんですか?」
だよね!女性しか入れない店舗にまずないもんね!ホッピー!!
一体全体、男性の目的はなんだろうか?
日本の女子大生で最も金がかかりそうなイメージのある慶應女子を4、5人捕まえて、ピザハットとホッピー。これを見て、大半の子は「ちょっと思ってたのと違う」と感じるのではないだろうか。
赤坂サカスに住むような人だから忙しいだろう。忙しい中で出会いながら、関係を持つチャンスを限りなくゼロにする行動の数々。それ、何ゲーム?
この合コン、もはや面白くなってきた。
私たちは、まるで蛾が光に集まるように引き寄せられたのだ
私は普通の合コンを忘れ、ぶっこむことにした。
私「ピザハット食べるの初めてです!お好きなんですか?」←実家が田舎すぎてピザハットがなかったから、実際に人生初だった
男性「いや、あんまり食事にうまいマズイとかわかんなくてさ~。高層マンションに住むと外に出るの面倒になるじゃん?そうすると出前でピザって便利なんだよね!」
この人、育ちは普通の家庭だと思った。
私の経験上、ある程度以上の階級で育った人は、自分がたとえザル舌でも、”下品”と見られることを恐れてザル舌であることを隠したがる傾向にある。
もしかして、ピザハットを合コンで頼むのも「自分がいつも食べているもの」なだけで、「家に集まってくれた初対面の女の子たちに振る舞うなら、もっといいもののほうが喜ぶかも」なんて、これっぽっちも考えていないのかもしれない。
男性「高校は田舎だったんだけど、大学でて会社員っていうのもなぁと。(中略)それなりに食べられるようになって」
男性「それでこうやって慶應の女の子と会えるんだから、まあ良かったよな!!」
はっとした。私たちが『赤坂サカスに住んでいるお兄さん』で集まるように、彼らは『慶應ガール』を求めたのだ。
「家柄があって金がない女子」と「収入があって家柄がない男子」の集まり。私たちはお互いに浅はかなブランド意識で集まったんだ。蛾が光に集まるように。胸がきゅっと痛くなった。
家賃100万円のマンションで得たのは、切ない胸の痛みだった
トイレに立った帰り、寝室がちらりと見えた。ベッドルームが全面、鏡張りだった。
文学の授業で出てきた、江戸川乱歩の『鏡地獄』を思い出した。全面鏡張りの球体に入った男性が発狂する話。
部屋をのぞいただけで複数の自分と目が合った。ひいい。走って戻って「え、え、いま、寝室全部鏡張りだったんですけど!?」とパーティルームへ飛び込んだ。
持ち主の男性はあっけらかんとした顔で
「ああ、それ、毎朝自分をチェックするのに使ってるんだよね。気にならない?自分の体。」
いいえ、気にならない。
私は足早においとました。世界は私が思ったよりずっとゆがんでいて、切なかった。
私には学歴も家柄もないから、補填してあげられなくてごめんね。と、心で小さく謝罪した。
※個人情報がわからないよう、地名や設定は実際とは異なるものに変更しています。