あんなにお姫様になりたくなかったのに「選ばれたい」アラサーの私達

「少女革命ウテナ」というアニメが1997年に放送されていた。

―ウテナは普通じゃない女の子。普通の女子は「王子様に愛されるお姫様になりたい!」と思う。でも、ウテナは「王子様になりたい!」と思うのだ。そんなウテナが出会った姫宮アンシーは、ウテナの対極をいく女性だった。男性の所有物になりたがる。ウテナはアンシーを救いたいと、アンシーを求める男性に決闘を申し込んでいく―

アニメ「少女革命ウテナ」は、一部女児に強烈な革命を起こした。

当時の女といえば“男に求められて価値が生まれるもの”。告白を自分からするなんて、プロポーズを自分からするなんて有り得ない。

そんな時代に「自分が王子様になる!」という響きは勇気を与えた。少なくとも私は与えられた。私もいつか王子様になって、好きになった人を守りたいと思った。

17年後、ウテナとは真逆の存在になろうとしていた

  • お姫様になりたい、なんて思いたくなかった

2014年当時。ウテナを観てから、17年が経っていた。当時の女児はアラサーになった。そして私は、結婚相談所で婚活をしていた。ウテナと間逆の「お姫様」になろうとしていた。

どうしてこうなってしまったんだろう?

1つの原因に絞ることはできなかった。総合職に内定したときの親戚の残念顔だろうか。守ろうとした彼氏が単なるヒモだと気づいてしまったあの日か。バリキャリだった姉が突然結婚した日か。

塵のように降り積る『でも、あなたはお姫様の役割があるでしょう?』という言葉が、私を走らせていた。LET IT GOを歌ってもエルサは城へ戻るんだ。令和になった今でも。

私の世界は一瞬革命されても、世界は何にも変わらなかった。

気付けば、守りたい存在のはずだった存在を刺していた

  • 許せなかった

アラサーになったウテナのなり損ないがもう1つ気づいたのは、私たちが「お姫様にさせてくれない人を攻撃し始めた」ことだった。

お姫様にならない女性とは、すなわち本命じゃなくてもいいからと、男性にすがる女性のことだ。浮気相手で満足し、本命と付き合う動機を奪う女性たちだ。

「私はお姫様になる」と思っている女性や、ウテナになり損なった女性たちにとって、お姫様にならなくてもいい女性は憎くてたまらない。

男性にちやほやされ、自立心もなく複数の相手をふらつき、笑顔をふりまく。現代の言葉なら、彼女こそ「サークルクラッシャー」とか「ビッチ」と呼ばれるだろう。本当は意思すらもてない、かわいそうな女性かもしれないのに。

ウテナのように「大事な人を守る!」と憧れた私達は、かくして本来守るべき「弱い女性」を刺し始めた。

意思がなく男の間をふらつく女性を刺さねば「お姫様」の地位が揺らいでしまう。「私の王子様になるべき男性が堕落してしまう。」

アニメの中でもそういう女性が出てきて、様々な憎しみの対象になる。『お姫様を選ぶ王子様』と『王子様に選ばれるお姫様』システムの中では、遊び人でいい女性を殺さなくてはいけないからだ。

真っ先に助けるべき「か弱い女性」が敵になるなんて、10歳の私は思ってなかった。王子様になるはずだった私は、お姫様になるために「ビッチ」を刺す立場になった。

お姫様に選ばれても、戦いは終わらない

  • それでも進んでいく

さて、「お姫様」に選ばれた女性には、物語の続きがある。

お姫様は子どもを作り、女王様にならなくてはいけないのだ。戦いは続く。お姫様に選ばれても、女王様になっても。

ウテナはアニメの中で、王子様ーお姫様システムすら超えて別の世界へ行ってしまうけど、ネタバレはつまらないのと、「お姫様は女のコ」「王子様は男のコ」の世界すら超えられない私たちに議論する資格なんかないのでやめよう。

お姫様から女王様になり、戦いに疲れてはっと後ろを振り向いたとき、『王子様に選ばれるなんてくっだらなーい』と言ってくれるはずのウテナは、あまりにも、遠い。

 
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